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リレーションシップ~保護者対応[STC研修レポート2021]

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保護者や家庭への個別のフォローが必要な場合も含めて「保護者対応」は先生方にとって重要な校務の一つです。教育コンサルタントの中土井鉄信氏を講師に招き、生徒・保護者との信頼関係を構築するためのコミュニケーションスキルを、ワークショップを通じて学んでいただきました。オンラインでの開催でしたがグループワーク、ペアワークも織り交ぜ、大いに盛り上がりました。

■研修講師

保護者対応 講師 中土井鉄信氏

中土井 鉄信 氏
合資会社マネジメント・ブレイン・アソシエイツ代表
NPOピースコミュニケーション研究所理事長

サービス業にとどまらない教育の仕事

今回のSTC研修は、保護者対応に役立つ人間関係の構築術について、2時間オンラインで実施しました。最新の注意が必要とはいえ、コロナ対応も落ち着きを見せてきた今年度は、保護者会や面談なども再開されています。どのようにしたら保護者とのリレーションシップを良好なものにできるのでしょうか。またそのために具体的に教員が身に付けるべきコミュニケーションのスキルとはどのようなものでしょうか。

私立中高一貫校や教育委員会、学習塾などを対象に経営コンサルティングを手掛ける合資会社マネジメント・ブレイン・アソシエイツ代表の中土井鉄信氏を講師に迎えた研修を実施しました。

冒頭に、教育サービスの顧客構造の解説がありました。「教育サービスは一般のサービス業と同じではない。」これが中土井氏の定義です。その理由はレストランや小売店などと比較すればよく分かります。

1つめの違いは、顧客のあり方です。教育サービス業では顧客が二重化しているのが他との違いです。教師や学校の“直接のサービスの受益者”は生徒ですが、生徒の成長に対して“対価”を支払っているのは保護者という“間接的な顧客”です。そこから顧客が二重化していると言えるのです。

2つめの違いは、サービスの受益者の心理的側面の違いです。教育サービスでは、教師が生徒の態度変容を期待して指導をします。そこには「叱る」ことも含まれますから、顧客である生徒が「嫌な気持ちになる」ことがあります。レストランと比べれば明らかに違う要素が含まれています。

二重になっている顧客の一方である生徒に、不愉快な思いをさせてまで、もう一方の顧客である保護者が対価を支払っている。これが教育サービスの本質だとすれば、▼保護者は子どもの成長を期待して学校に預ける ▼学校はその期待を背負って生徒を指導する ▼その結果、生徒はやる気を出して態度が変容し、信頼関係が形成される ▼学校が保護者に説明責任を果たすーーという学校の営みは「意欲」や「信頼」といった目に見えないものによって担保されうるものだと理解できます。生徒・保護者との関係づくり、ラポール形成は生徒の成長にもかかわる課題であり、教師は必ずコミュニケーションを通して、この関係づくりを進めていく必要があります。

教師と保護者は情報が「非対称」になる

しかし、現実には学校と保護者の間には情報の「非対称性」が生じています。住宅・不動産情報ポータルサイト HOME’Sが教職員と保護者1700人を対象に実施したアンケート調査によると、中学校教師で「保護者とのコミュニケーションが全く取れていない」と感じているのはわずか2%ですが、保護者で「担任とのコミュニケーションが全く取れていない」と感じているのは25%にも上ったのです。このことから、中土井氏は「先生がたくさんコミュニケーションを取っていると感じていても、保護者は『取れていない』と感じている。このギャップを埋めるには『やりすぎ』くらいでちょうどいい」と指摘します。

教師と保護者の「情報の非対称性」を実感するために、中土井氏は1つのワークを先生方にやってもらいました。それは、「太陽が照っていて、山が見え、小川が流れている…」などと言葉で説明された風景を、自分なりに絵に描いてみるというものです。グループで出来上がった絵をそれぞれ見せ合うと、どれひとつ同じものはありません。

一人ひとり受け止め方が異なる受信者に対して、発信者の伝えたい思いや考えを言葉にして伝えても、100%同じことを相手が想起できるわけではない。これらをふまえて、保護者対応に必要なコミュニケーション術を学んでいきました。

自分が重要だと思われる実感を与える

コミュニケーションの目的は「情報を伝達することではない」。これも、意外に思うかもしれませんが、中土井氏が強調することです。発信者は相手に関心を示しながら、相手を理解しよという姿勢を見せること。それを「受け手」がどう感じるかによって成立します。生徒とのコミュニケーションにおいては、生徒が「他人が、自分のことを重要だと思ってくれている」感覚を持ち、「セルフエスティーム(自己重要感)」を高めることが重要です。それが学習や学校活動への「意欲」につながっていきます。

心理的に不安定な中高生のセルフエスティームを高めるには、教師が生徒の「当たり前」に目を向け、承認することが第一歩です。その承認が生徒に「心のエネルギー」として蓄積されるのを、先生方のペアワークで実感してもらいました。ペアの片方が相手を1分間観察し、よいところを言葉で伝えます。ここで重要なのは、相手のよい点を認めるには「当たり前のこと」に目を向ける必要があると気づくことです。

次の中土井氏の問いかけによってハッとした先生も多かったかもしれません。「次のワークで、相手のここを直したほうがいい、という点を挙げて伝えるものだったら、みなさんはやりたいですか? 抵抗がありますよね。しかし、教師は生徒にできていないところの指摘を、いとも簡単にやりすぎるのです」当たり前のことに着目してほめると、生徒は自分が大切にされていると感じます。この「存在承認」がラポール形成の第一歩なのです。

生徒の当たり前を承認するには、生徒の見方を変えるスキル「リフレーミング」が有効です。「いい加減」を言い換えると「ものにこだわらない」「執着しない」となります。「おしゃべり」は、「人見知りしない」「人懐こい」などと言い換えることができます。「頑固」は、「信念がある」「自分の考え方をしっかり持っている」などです。リフレーミングは生徒への言葉がけや、角度を変えた生徒へのアドバイスにも役立ちます。

面談のスキルアップは「知りたい」気持ちから

後半は保護者面談のポイントについて講義とワークがありました。「保護者対応」と聞くと、経験の浅い先生方は苦手意識を持ってしまいがちです。保護者との信頼関係を結ぶためには、保護者が安心して話せる「心の安全地帯」を作っていかねばなりません。面談などで使えるいくつかのテクニックも紹介されました。

・相手を「知りたい」気持ちで臨む
・保護者の価値観や考えを引き出すような質問「どんなふうに育ってほしいと思ってお子さんを育ててこられましたか?」など。
・保護者が考えなくても覚えていれば、すぐに答えられる「閉じた質問」も織り交ぜる。「お住まいはどちらですか?」「スポーツは好きですか?」など。
・表情と言葉が一致しているか、よく観察する

受講後の振り返りシートからは、心理学的見地から具体的なノウハウが得られたことを評価する感想が寄せられました。

「保護者面談やクレーム対応について心理的なアプローチの仕方を教えていただき大変勉強になった。生徒対応も保護者対応も、まずは相手を知ろうとすることがコミュニケーションの第一歩であることがわかった。全てが初めてで不安なことばかりだが、相手の心に寄り添い、『この人が担任で良かった』と安心感を与えられるような担任になれるよう励んでいきたい」

「今後のキャリアにおいて不可欠なスキルであると感じた。人とたくさん関わる職業であるからこそコミュニケーションの重要性を学ぶことは必要であると強く思った」

「自身の過去と重ね、お話を聞きながら『あの時は、こうすればよかったのかもしれない』という考えがたくさん浮かんできた。明日から、自身の研鑽のために、活用したい」

などです。

保護者面談の流れやクレーム対応のポイントは、前回の「スクールコンプライアンス」の内容とも重複した内容もありましたので、連続で参加された先生方には理解が深まったのではないでしょうか。

■開催概要
日時:2021年6月24日(木)16:30~18:30
場所:Zoomオンライン

■講師紹介
中土井 鉄信 氏
合資会社マネジメント・ブレイン・アソシエイツ代表
NPOピースコミュニケーション研究所理事長

1961年、神奈川県生まれ。子どものセルフ・エスティーム(自己重
要感)向上に主眼をおいた教育観をもつ指導者として知られる教育コンサルタント。
國學院大學文学部哲学科卒業。生活指導の権威である竹内常一教授のもと非行少年へのアプローチ法を研究。
卒業後は、学習塾で学習指導にかかわる。大手学習塾の経営幹部を経て2001年独立。
私立中高一貫校の学園改革、全国の教育委員会の依頼を受けての教員や保護者向けの研修、学習塾の経営指導にあたる。

ご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。

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