Z会

  1. 教員採用情報のイー・スタッフ TOP
  2. 教員研修・育成セミナー情報
  3. 研修レポート
  4. 第10回 生徒理解に必要な発達障害の視点と対応[STC研修レポート2022]

教員研修・育成セミナーレポート

第10回 生徒理解に必要な発達障害の視点と対応[STC研修レポート2022]

Share

Close

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE

「気になる生徒」にどう対処すればいいか。日々、学校現場では試行錯誤が繰り返されています。発達障害の支援法も整備され、発達に特性を持つ子どもたちへの学校内での対応がますます望まれていますが、私立学校においては研修やサポートなどが不十分な現状もあります。『私学流 特別支援教育』などの編者で私立の支援状況にも詳しい橋あつ子氏を講師に迎え、発達障害への理解と具体的な支援について学びました

■研修講師

発達障害の視点と対応 髙橋あつ子氏

講師:髙橋 あつ子 氏 

早稲田大学大学院 教育学研究科教授 

 

思春期の教室で「困りごと」があるのは当たり前 

発達障害学力とは異なる次元で見た困難でもあり学力選抜のある私立学校においても、困難を抱える生徒への支援が強く求められています。しかし、具体的には教師は「気になる生徒」をどう理解し、サポートしていけばよいのでしょうか。 

講師は臨床心理士で、早稲田大学大学院教育学研究科教授の髙橋あつ子氏です。生徒理解に必要な発達障害への視点と対応について、特に私立学校の現状を踏まえながら、解説してもらいました。 

まず、学級の中で「気になる生徒」がいるのは当たり前であり、特に思春期においては集団の中でもめ事や困りごとがあるのは普通のことであると、髙橋氏は指摘します。その中で、かつて厳しい指導が行われたり、よかれと思っての指導でも不適切な指導が行われたりすることもありましたが、現在はそれぞれの生徒の特性に見合った指導が求められています。 

今回の研修の共通目標は「生徒理解の視点を広げ、特性や実態に合った対応ができる」です。参加者それぞれの自己目標も、チャット欄で投稿してもらいました。 

 

理解と支援の視点をもって教育的対応をする 

講義では最初に、1.生徒理解の視点について解説がありました。髙橋氏からは発達障害は「本来の脳に起因する脆弱さ」であり、鍛えて直るものでもなく、また家庭環境の要因で起こるものではないという注意がありました。さらに、私立学校では小学校で特性に気づいた保護者が「面倒見のよさ」から私立進学を選ぶという傾向もあります。私立は公立以上に中1段階での生徒理解が必要だと髙橋氏は言います。また、教員には医療の視点ではなく「教育的対応」が求められることが説明されました。 

次に、2.発達障害の基礎理解の解説に入ります。まず、障害の社会モデルについて説明がありました。現在では障害は「個人に内在するのではなく、環境との調整がされていないことによって大きな社会的障壁になっている」と、とらえられています。発達障害も同様で、実態把握をすること(アセスメント)が大事という指摘がされました。 

発達障害は大きくLD(学習の障害)、ADD/ADHD(行動の障害)、ASD(対人関係の障害)の3つのグループに分けて理解されています。それぞれの障害についてより詳しい説明があり、生徒が「発達障害かもしれない」と思ったとき、教員はそこに留まらず、特性を把握して対応することが必要です。 

ここで、ワークシートを使い、特性に応じた支援を書きだす個人演習が実施されました。その後、グループに分かれ、ブレイクアウトルームでセッションを実施しました。各ルームでは「学力は高いけれど寝てしまう生徒にはどうすればいいか」「問題解決したあとの学校生活をどう支援すればよいか」「周囲の生徒の困惑をどうするか」など、それぞれが抱えている課題が話し合われていました。 

 

LD、ADD/ADHD、ASDに対する具体的な支援 

では、具体的に学校においてどんな支援が必要なのでしょうか。一般的な対処としては、講義中心ではなく、生徒が学ぶための多様なルートを確保することが大切と、髙橋氏。 

まず、LD(学習面の困難を抱える生徒)に関しては、「読み」の難しさに対する読み上げソフトやデジタル教科書などの支援、「書き」の難しさがある生徒へはパソコン入力やICレコーダーでの録画、板書の撮影の許可などの支援があります。 

次に、ADD/ADHD(行動面の困難を抱える生徒)には、「ルールや順番が守れない」「多動・多弁」「ぼっとしている」「提出物が出せない」などの特徴があります。落ち着きがない生徒への揺れを作れるイスなどの紹介もありました。また、注意・集中が難しい生徒には3分・5分で期間指導をして、達成できたら誉めてあげる、忘れ物をしない仕組みを作る、など様々な支援策が紹介されました。 

最後に、最も難しいと考えられるASD(社会性の困難を抱える生徒)への理解と支援について解説がありました。特に発見されにくい「受動型」の生徒には、中1・高1といった入学時点で教員が早めに気づくことが大切、と髙橋氏。必要な社会スキルを教師が言語化して説明してあげることで、その生徒の中で〝適切な行動〟がデータベース化されていき、「人の気持ちはわからなくても社会性のある行動ができる」という結果に結びつくことが解説されました。また、知覚過敏の生徒には、耳栓やイヤーマフの利用も推奨されます。 

 

合理的配慮をすべての生徒に対して 

最後に、合理的配慮のグッズや機会などを誰でもいつでも使えるようにすれば、個別に配慮上乗せする必要がなく、多様性のある教室がつくれることが強調されました。さらに、私学ではカリキュラムの自由度が高いので、それぞれのニーズに合った教育が提供しやすいということも補足されました。

講義の終わりの質疑応答では、実際に学校現場で発達障害の生徒に対応している教員から「ワガママなのか障壁なのかの境目をどういう指標で見ればよいか」という質問がありました。髙橋氏は、生徒に達成したい目標を聞いて、「やりたいのだけれど出来ないという場合は、あなたに合ったお手伝いをしたい」と声かけをしてみたらどうか、と提案。わがままか障壁かを検討するよりも、適切なアセスメントによるサポートが大切とのアドバイスでした。 

後日の振り返りでは、「生徒の障害のカテゴリーづけや、障壁かワガママかといった視点ではなく、教員はそれぞれの生徒の苦手や得意、困難を見ていくべきと感じた」「学校全体での取り組みは難しいが、できるところから改善していきたい」など、前向きな意見を見ることができました。また、全体に発達障害への理解が深まった様子が伝わってきました。 

ご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。

地方

都道府県