[STC研修]私立学校を取りまく最新の教育事情
テーマ 私立学校を取りまく最新の教育事情
17:00~20:00
講師: 上野 伸二 氏
国立と私大で分かれる英語4技能資格の扱い
私立学校を取りまく最新の教育事情といえば、2020年大学入試改革がもっとも注目すべきトピックと言えるでしょう。センター試験は残すところあと1回、2021年1月より新たな「大学入学共通テスト」が始まります。文部科学省は6月上旬、その実施概要を公表、科目や試験時間、配点等が明らかになってきました。現高校2年生以下の生徒を受け持つ先生方や進路指導担当の先生方には待ちに待った情報です。
では、こうした大学入試改革をめぐる国公立・私立大学の動きは、どのような入試動向となって表れてくるのでしょうか。また、これからの中学生、高校生は大学入試に向けてどのような力を伸ばしていけばいいのでしょうか。
今回の研修は(株)エデュケーショナルネットワーク教材編集長の上野伸二氏が講師となり、各種データから大学入試の未来予測と私立学校の進路戦略について解説しました。上野氏は長年、学習塾専用教材の制作・編集に従事してきました。中学、高校、大学と各校種の入試問題を網羅し、大学入試や高校入試動向を予測、学習塾や学校、保護者を対象とした講演を積極的に行っています。今回の研修内容は昨年度のSTC研修においては、初任・若手の先生方向けに、年末におこなっていました。ですが、今回は大学入試に関連する最新動向をいち早くお届けするため、年度始めに企画したものです。会場には若手の先生方だけでなく、進路指導担当、高校入試担当など学校経営の中枢を担うベテランの先生方が集まり、真剣な表情で受講されていました。
「結論から言うと、新高校2年生は志望校が国立か私立かで対策が全く変わってきます」と上野氏は断言します。その最大の理由は、英語の「聞く・読む・話す・書く」の4技能を評価する民間資格・検定試験の入試への活用方法の違いにあるといいます。
(中略)
上野氏は「国立を目指すなら国立二次試験対策を優先すべきで、英語4技能に傾いてはいけない」と警鐘を鳴らします。また英語に関しては、大学入試だけでなく小学校での教科化、学習指導要領の全面改訂のスケジュールとも相まって、中学・高校においても重要なテーマだと付け加えました。
「大学入学共通テスト」の傾向と対策
もう一つの注目点はセンター試験から衣替えする「大学入学共通テスト」(以下、共通テスト)の内容です。本格実施に備えて実施された2回のプレテストから、共通テストの傾向と特徴は次のようになると上野氏は予測しました。
(1)記述式問題の導入
・記述式問題は「国語」と「数学1」「数学1・数学A」で出題。(※大学入試センター「令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト出題教科・科目の出題方法等」により確定 https://www.dnc.ac.jp/news/20190607-03.html )
・2回目のプレテストでは難易度を調整したものの、数学の正答率は上がらなかった。したがってこれ以上、易しくはならず、数学は「難しくなる」
・自己採点と実際の採点結果との不一致率が課題
(2)理数教科の難化
・共通テストは平均得点率を50%に設定。
・プレテストでは得点率は26.61%と低くなってしまった。
・若干の調整はあるものの出題のコンセプトは変わらず、結果として「難しくなる」
(3)出題形式の変化
・日常的な題材や複数の資料の読み取りなど全教科において「認知的負荷の高い」形式に変化
・読解量が増加。長文を読ませて知識を問う形に。
・「当てはまるものを全て選ぶ」など知識の正確さも問われる
(4)英語4技能の評価
・民間の英語資格・検定試験の導入が決定。
・活用方法は「出願資格」「得点換算」「試験免除」など大学により多様
・共通テストの英語試験は「リーディング」(センター試験での「筆記」から変更)と「リスニング」の得点比率は1:1に。
・私立大学では、一般入試と共通テスト利用入試で、英語民間資格・検定試験の扱いが混在し、わかりにくい。2級を取得していれば志望校選びの幅は広がる。
このような特徴を持つ共通テストを取り入れつつ、独自の入試改革を進めているのが、早稲田大学、上智大学、青山学院大学の3大学です。上野氏は各大学の事例を取り上げ、配点比重や実際に求められる英語のレベルなどを詳しく解説しました。「志望大学の入試変更点を詳細に確認し、高2生の志望校選びと受験対策を戦略的に練っていくことが求められる」と強調しています。
全教科で問われる、現実社会の課題
後半は共通テストプレテストや上位私大、高校入試の入試問題分析を通して、今後、高校や中学で求められる学び方、生徒が身に付けるべき学力について考察を展開していきます。共通テストでは前述したとおり、センター試験とは大きく異なる特徴があります。長い条件文や会話を読み解く(数学)、実際のコミュニケーション場面を想定できる(英語)、実用的な文章や資料を踏まえて考察する(国語)、原理を理解したうえで知識と関連付ける(理科)、あてはまるものを複数選ぶ正確な知識(社会)などの違いを、プレテストから読み解きました。また、私立上位大学の出題傾向としては「時事問題や現代社会で問われている課題」を取り上げることが増えているといいます。データを用いて対策を答えさせたり、自分の意見を英作文で書かせるなど解答形式も複雑化していることを紹介しました。
「AIやビッグデータ、ブレグジット、SDGs、社会格差といった時事問題は必須。その知識を前提として公正、正義、利他性、共感、モラルといった角度から是非や解決法を論じられる、考えを伝えられる力が問われています。ということは、生徒の中に主張できる意見がないと答えられません。これができるようになるにはトレーニングが必要です。現実社会の課題を取り上げた新書などを先生方も読み、生徒にも積極的に読ませる、授業の中で話題を振ってみるとよいでしょう。それは生徒たちに“何のために学んでいるのか” “自分は社会にどうかかわっていくのか”を考えさせることにもつながります」
<現代の社会課題がわかる、おすすめの新書>
・今井むつみ『学びとは何かー〈探究人〉になるために』岩波新書
・落合陽一著『日本進化論』SBクリエイティブ
・亀田達也著『モラルの起源――実験社会科学からの問い』岩波新書
・西垣通『ビッグデータと人工知能 可能性と罠を見極める』中公新書
・鷲田清一『しんがりの思想 ―反リーダーシップ論―』角川新書
2020年大学入試改革、共通テストの影響は、すでに高校入試問題に表れていると上野氏は指摘します。そこで、全国の公立高校のこの春の入試問題がいくつか紹介されました。出題傾向だけでなく、解答形式も共通テストプレテストを意識しているとしています。
「これから、高校には、このような試験を経験してきた生徒たちが入学してきます。今後は現実社会の課題に対してしっかりと意見を持ち、“書ける”生徒が有利になると高校入試問題を分析していて実感しました。今後の大学入試も含めてそうした流れになっていることを理解いただき、大学入試対策としても現状の公立高校の入試問題を参考にしてみてほしい」と締めくくりました。
5月31日に文部科学省が公表した、各大学の共通テストや英語の資格・検定試験の活用方法は、国立・公立・私立でばらつきがあるだけでなく、国語の記述式問題の活用方法については69.3%が「まだ決まっていない」と回答しています。本番まで1年半を切る中、進路指導にあたってはきめ細かな情報収集が生徒の進路実現のカギになることは間違いありません。弊社では『エデュケーショナルネットワークジャーナル』を始め、多彩なチャンネルを通じて情報提供に努めてまいります。
( 英語 / 社会 / 理科 / 数学 / 国語 / その他 )
STC研修に関するご相談は、お問い合わせよりご連絡下さい。
折返し弊社よりご連絡差し上げます。
関連URL:エデュケーショナルネットワークジャーナル