2021/3/26公開
何となく言葉は知っているけれど、実はよく分かっていない。そういう言葉を「バズワード」と言いますが、教育界だと「GIGA(ギガ)スクール構想」もその一つかもしれません。「GIGAスクール構想」とは何か問われて、いったいどれだけの人が正しく説明できるでしょうか。先ごろ実施された調査によると、当事者であるはずの先生方ですら、「名前を知っている」と答えたのは約6割という結果に。しかし同構想は「今後の教育のスタンダードとなる」と言われるほど、極めて重要なプランです。改めて、GIGAスクール構想とは何か、正しく理解しておきましょう。
「一人1台のPC端末」と「高速大容量ネットワーク」
結論から言うと、「GIGAスクール構想」のキーワードは2点。主に小中学校において(※)、国が財源を補助する形で「①児童・生徒一人1台のPC端末」と「②高速大容量通信ネットワーク」を同時進行で整備する計画のことです。
※高校はすでにBYOD(Bring Your Own Device:スマートフォンなど、個人所有の端末を学校や職場に持ち込んで学習・業務に利用すること)の取り組みが進んでいることから、端末整備については補助の対象外
2018年度に掲げられた「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」に基づき、2023年度の完全実現を目指して始まった同構想。しかし新型コロナウイルスによる休校措置やその間に進んだオンライン授業の発展などを受けて重要性・緊急性がさらに高まり、2021年度末実現を目標とするよう前倒しされました。
ただ、その認知は行き届いているとは言えません。教職員を対象に行った調査によると、GIGAスクール構想の「名前を知っている」のは60.8%、さらに「内容を知っている」と答えたのは43.2%、「内容を深く知っている」に至っては19.2%にとどまっています。2021年度末の実現を目指す構想に対して、現時点(2020年度の2月)での認知がこの程度であるのなら、まだまだ周知が必要だと言えるでしょう。
生徒一人1台のPC端末と、高速大容量通信環境の実現を目指す「GIGAスクール構想」
日本の学校におけるICT活用は、OECD最下位クラス
「GIGA(ギガ)」と聞くと、通信容量のそれをイメージするかもしれませんが、そうではありません。ここで言う「GIGA」とは「Global and Innovation Gateway for All」の略で、「すべての子どもたちに、グローバルと革新への入り口を!」と訳すことができます。つまり、学校でのICT活用で子どもたちの学びの質をより高め、個々の可能性を広げていこうというものです。
しかし、日本の教育現場は諸外国と比べてICT活用が遅れており、OECD加盟国の中でも最下位。文科省の「教育用コンピューター1台あたりの児童生徒数」の調査では、5.4人に1人であることが分かっています。コロナ休校時にがぜん注目度が高まったオンライン授業も、ほとんどは私立校による実践だったのが実情で、組織体制上どうしても仕組み作りに時間のかかる公立校の多くは、郵送で課題をやり取りするにとどまっていました。
こうした状況を鑑み、公立・私立を問わず全国一律でICT環境を整備しようとしたのがGIGAスクール構想です。もし2021年度末に一人1台の端末環境が実現すれば、普及率はOECD内でも一気にトップに躍り出ると言われています。
ICT活用におけるOECD各国との比較(出典:文部科学省「OECD 生徒の学習到達度調査2018年調査」
なぜ「一人1台」が重要なのか
GIGAスクール構想の骨子をもう少し具体的に見てみると、以下のとおり。
●ICTの活用
●学習者一人1台のPCを配備
●校内におけるLAN整備(=高速大容量の通信環境整備)
●学習ツールおよび校務のクラウド化
まず「ICTの活用」とは、デジタル教材やプログラミング教育など、学習方法・内容ともにICTを積極的に取り入れ、生徒の情報活用能力(ICTスキル)を伸ばしましょうというもの。
そして「一人1台」ですが、改めて考えてみると「なぜ一人1台にこだわるのか」「5.4人に1台でも別に良いのでは?」という疑問が浮かぶかもしれません。確かにこれまではそれで学校教育が成立していたわけですから、なおさらです。
しかし、時代と共に学ぶべきことや学び方は変わります。新しい学習指導要領でも「主体的・対話的で深い学び」(を大切にする)と示されたように、その場で調べごとをしたり、グループで協働学習をしたりといいった学び方が増えました。
このとき自分用の端末がなく、常に友達と共有して使わなければいけないとしたらどうですか? 端末を紙媒体の教材やノートに置き換えて考えれば、それがいかに不便で非効率的か理解できるはずです。ICT機器の使用スキル向上に目を向けても、一人1台か否かで、物理的な接触時間(による習熟度)の差は歴然です。
一方、高速大容量の通信環境はなぜ必要なのでしょうか。ICTを活用した新しい学びでは、ネット検索しながら学んだり、同時に多数の生徒が動画を視聴したり、課題や資料の配布・回収を行ったりするケースが増えます。これを授業中のすべての教室で同時に稼働させようと思えば、高性能なネットワーク機能が欠かせません。そのため「一人1台」と「通信環境の整備」はワンセットで進めるべき、という考えなのです。
https://youtu.be/K0wxp_vyRKM
「GIGAスクール構想」文部科学省公式プロモーション動画
クラウド化で、生徒も先生も効率的に
最後に「学習ツールおよび校務のクラウド化」について。
「学習ツールのクラウド化」とは、単に教科書や教材をデジタル化するだけでなく、それらがWebブラウザー上で機能したり、グループウェアやファイル共有システムを介して情報や成果物を教員・生徒間で共有したりできる状態を指します。
校務も同様に、教職員の業務をクラウド化して効率化や負担の軽減を行い、働き方改革を進めることが目的です。たとえば生徒一人ひとりに印刷・配布していたプリントも、データ化して1クリックで各自の端末に一斉配信できるようになれば、どれだけ楽なことか。文科省は、教務も事務も一括して行える「総合型校務支援システム」の導入を想定しており、一部の学校ではすでに運用が始まっています。
これらの実例については過去のコラムでも一部紹介しています。
ICTは手段であり、目的ではない
GIGAスクール構想について、具体的にご理解いただけたでしょうか? しかし、忘れてならないのは「なぜそれをやるのか」です。GIGAスクール構想は、ICTの導入というハード整備が注目を集めがちですが、その本質的な目的は、ICT導入による「学習の個別最適化」です。いわゆる“アダプティブラーニング”と呼ばれるもので、子ども一人ひとりに合わせた学習を指します。
理解度・習熟度はもちろん、適正、性格、興味関心などをふまえて個々に最適な学び方をカスタマイズすることの理想性は、誰もが認めるところでしょう。しかし実際にそれを行おうとすれば、先生方の負担は計り知れません。理想的だと分かっていながら、実際にやるのは難しいのが現実だったのです。
しかしICTの革新は、それが不可能ではない時代を生み出しました。実際に、AIを用いて個々の苦手箇所を分析して出題する教材などが多数開発されており、人気を集めています。こうしたアダプティブな学びを届けるために不可欠な環境が、まさに「一人1台」であり、「高速大容量通信」であり、そして「GIGAスクール構想」だったのです。
ICTは目的ではなく、あくまで手段に過ぎません。その視点を忘れずに、この大改革を迎えたいものです。
GIGAスクールで目指す学びの個別最適化イメージ(出典:文部科学省 新時代の学びを支える先端技術活用推進方策)
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オンライン授業⑨アフターコロナで進むか、戻るか。オンライン授業の「これから」