コロナ禍において2020年4月に発令された1回目の緊急事態宣言下で、一斉休校に入った全国の学校。それは、教育現場における有事の対応力を浮き彫りにしました。そこで、エデュケーショナルネットワークが発行する「進学通信(関西版)」では、関西圏の私立中高にアンケートを実施。校内での感染防止対策、学習の遅れ、行事やクラブ活動の中止……誰も経験したことのないこの未曾有の事態に、学校はどう向き合ったのでしょうか。
私学らしい「柔軟性」「スピード感」
感染防止対策の徹底は、生徒だけでなく先生たち自身の安全を守る行為でもあり、「職場としての安全性」も重要です。マスク着用や検温の徹底、「密」になりやすい施設の利用制限、消毒液や次亜塩酸マットの設置など、一般的な環境整備はほぼすべての学校で実施されていました。
その中で私学らしさが見えたのが、「柔軟性」と「スピード感」。たとえば「休憩時間を延ばす」「(感染への不安からくる)出欠の自己判断に対して柔軟に対応する」などが挙げられます。また、「サーモグラフィカメラを導入した」「手洗い場を増設した」など、設備面に力を入れた学校もありました。いずれも、各校が独自に意思決定できる、私学の強みがよく表れていると言えるでしょう。
もちろん公立校でも、可能な限りの努力と配慮はしています。ただ組織構造上、どうしても意思決定の早さや柔軟性に制約が生まれがちで、こうした有事においては学校単体で判断できる私学の強みが活かしやすいと言えます。
積極的なICT活用で、大幅な学習の遅れは見ることができず
一方で、学習そのものはどうでしょうか。キーワードとして見えてくるのは「ICT」です。コロナ休校に伴い「何らかの形でICTを活用した」と答えたのは、ほぼ全校とも言える99%にのぼっています。
ただ、学校だけがその体制を整えれば良いわけではありません。通信速度が遅い、生徒が自由に使える端末がないなど、家庭のICT環境はさまざまですが、端末やWi-Fi機器の貸し出しを行ったり、学校施設の利用を許可したりと、柔軟に対応したようです。中には、家庭のICT環境整備のために補助金を支給した学校までありました。
コロナ休校により一気にその認知度を高めたオンライン授業も、その実践の多くは私学によるものでした。文部科学省が公立校を対象に行った調査によると、休校時に同時双方向型オンライン授業を実施できた学校は約5%、動画配信などのオンデマンド型授業でも約39%に留まる結果に。
しかし、関西の私学を対象に行った今回のアンケートでは、同時双方向型で約75%、オンデマンド型に至っては約85%と非常に高い結果になりました。開始時期も、約53%が「4月中旬」と回答しており、遅くとも5月中旬までにはほぼすべての学校が実施。もともと教育ICTについては私学のほうが進んでいる傾向がありましたが、公立校は、先述した組織構造上の問題がここでも影響した形です。
その成果か、学習の遅れは休校当初に懸念されたほどではなかったようで、学習進度は「通常どおり」が約40%、「多少の遅れは出たが対応可能」が約53%と回答しています。
クラブ活動もオンラインで工夫
勉強と同じくらい、生徒の学校生活の中で大きな存在感を持つのがクラブ活動です。しかし、対面や接触が多くなることから、6月中旬くらいまで、ほぼすべてのクラブが活動停止を余儀なくされていました。
そのような状況下でも、ICTを活用して、できる範囲で活動を行っていたクラブもあったようです。たとえばオンラインミーティングをしたり、生徒が各自の自宅でできるトレーニングを一緒に行ったり。オンライン合奏に挑戦する吹奏楽部やオーケストラ部もありました。
さすがに行事は規模縮小や中止となるケースも出ましたが、一時的に延期する、修学旅行の旅程や行き先を変えるなど、できる限りの形で生徒たちに思い出を届けようとしています。
生徒たちに「つながり」を! 学校の存在意義とは
そもそも学校に通う意義は、先生や友達とのコミュニケーションの中にあると言っても過言ではありません。全体を俯瞰してみると、あらゆる手を尽くして学校が「つながり」を届けようとしていたことがよく分かります。
ICTの活用は授業やクラブだけでなく、オンラインホームルーム、オンラインランチにまで及んだほか、ホームページで先生方の動画メッセージを配信していた学校もありました。もちろん、一人ひとりに電話を入れる、家庭訪問するなど、アナログな取り組みが多数あったことも忘れてはいけません。「一人じゃないんだ」と実感できるさまざまな取り組みで、生徒たちを支え続けてきたのです。その一つひとつの活動にこそ、学校の存在意義があったのではないでしょうか。