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第1回B 主体的・対話的で深い学び研修[STC研修レポート2022]

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授業において主体的・対話的で深い学びを実践することは、初任者といえども避けて通れません。今回の講座では授業に必要なスキルを身につけることで、将来の担任・生徒指導につなげていく意識を持ってもらいます。グループディスカッションを多く取り入れた研修で、教育現場で求められる新しい考え方やスキルを身につけます。

■研修講師

小林 昭文 氏
株式会社AL&AL 研究所 代表

主体的・対話的で深い学びを実現するために

新しい学習指導要領においては、文部科学省から「主体的・対話的で深い学びからの授業改善」の指針が示されるなど、近年の教育の方向性をより強化する方針が打ち出されました。教員が生徒の前に立ち、一方的に講義を展開するような授業はもはや成り立ちません。新任・初任者においても、主体的・対話的で深い学びを生徒たちに提供することが求められているといえるでしょう。

今回の研修ではグループディスカッションを行い、疑問点を講師と考えていくことで、新しい教育を実践していくためのスキルを身につけます。

講師はAL&AL 研究所の小林昭文氏です。埼玉県公立高校教諭として 25 年間勤務し、物理の授業で主体的・対話的で深い学びを実践してきました。受講者には事前に小林氏が作成した動画を見てもらい、スプレッドシートに質問事項を書き込んでもらっています。スプレッドシートには小林氏が個別に回答しているため、この日の研修では主に動画を見ての感想と質問、アドバイスなどが行われました。

初めに研修の流れを講師が簡単に説明したあと、すぐに各グループに分かれてブレイクアウトルームでのセッションとなります。話し合う内容は1.簡単な自己紹介 2.動画の感想 3.今回質問したいこと です。初任者同士ということもあり、どのルームでも活発に意見が交わされていました。

特に「動画を見て、小林先生の取り組みが非常によいと思ったが、自分の学校・学年での導入は難しく感じた」「早速、今日の授業で『授業中に立ち歩いてもいいよ』と実践してみたが、ただ立っているだけの生徒もいて声かけに悩んだ」「クラスのレベルによって主体的な学びが難しいこともある」など、「導入したいけれど課題も感じる」という意見が多くうかがえました。一方で、実際に振り返りを多くし、生徒が能動的になれる授業をすでに実践している受講者もおり、初任者には学びの多いディスカッションであったようです。

到達度の低い生徒に主体的に学んでもらうには

ディスカッション終了後、各グループの代表がチャットで講師への質問を書き込み、小林氏がそれに順番に答えていきました。「成績下位の生徒に主体的に学んでもらうにはどうすればいいか?」という質問には、「先生がコントロールしようと考えるから大変になる。単語を読むことができない、知識が足りない生徒にはどうサポートするかが大事」として、1.辞書やICTを与え検索自由にする 2.グループ内・グループ外の友達に教えてもらう という2つの方法があることが紹介されました。

また、「わからない生徒を手取り足取りサポートしないのは放置にあたらないか気になる」という質問には、「質問の仕方を教えることがポイント」と指摘。講義型でない授業では生徒同士の「教え合い」「学び合い」が大切ですが、しばしば「優秀な生徒がスラスラと説明し、ついていけない生徒はただ話を聞いているだけ=結局わからない」という事象が起こります。そのことを避けるためには、優秀な生徒に対しても教員が「それは教科書のどこに書いてあったのかな?」「それはどういう意味かな?」と質問をして、ついていけない生徒たちに「質問の仕方」を学んでもらうことが効果的だと小林氏は強調します。さらに、教室の中だけではなく、これからの子どもたちが変化の激しい社会で生きていく上で「質問する力」が非常に大切であることが説明されました。

その後もいくつかの質問に答えたあと、小林氏から「協働的な学びをしてもらうために、まずは生徒に教室が安心・安全な場であると実感してもらうこと」という解説がありました。協働的な学びは、「さあ、学びましょう」と声をかけてすぐにできることではありません。小林氏も自らの授業の際、最初の1時間は人間関係作りのワークに費やしたといいます。授業以前に、「ここは質問をしてもいい場所」「友達に助けてもらっていい場所」と生徒たちが実感することが大事です。

さらに、問題集などは「答えを渡してしまってもいい」と説明され、これは参加者にとって驚きがあったようです。答えを見てしまっては学習にならないと教員は考えてしまいますが、「答えを見ながら解き方をみんなで考える」ことで学びにつながると小林氏はいいます。

加えて、教員が気を付けなければいけないこととして、

1.正当な理由なく叱らない

2.にこやかにしている

3.危機介入のスイッチをきちんと入れ替える

の3点が挙げられました。3.の危機介入のスイッチとは、危険な行為やいじめに対する介入のことです。危険な行為、あるいは、いじめにあたるような行為が教室内であった場合、普段どおりににこやかに接するのではなく、厳しく対応することが、生徒たちが安心して学ぶために必要だということが説明されました。

学校というコミュニティーの中でのキャリア指導

休憩のあと、再びブレイクアウトルームで15分間のセッションが行われました。今度は、「グループで講師への質問文をきちんと作成すること」がミッションです。

ブレイクアウトルームでは、早速さまざまな疑問が検討されました。参加者の中には社会人から転職した受講者もおり、学校と企業との違いなども話し合われていました。それぞれのグループで議論をリードする係、記録をする係など、上手に分担をしながらセッションを進めている様子がうかがえました。

メインルームに戻り、質疑応答に入りました。担任スキルとして、特に私学では要求されることが多いキャリア教育につて、「学校というコミュニティーしか知らない自分たちが、どうキャリア支援をしていったらいいか」という質問が出ました。10年後にどんな職業が残っているかわからないとされている現代、「どんな職業が残るかというアドバイスが難しい」という意見には、「どんな職業が残るか?と聞かれたら、『わからない』と答えればよい」と小林氏から答えがありました。ただ、社会の変化の激しい今、これからの子どもたちは「初職は転職するつもりで就く」という心構えのほうが生きやすいと指摘。どの職業という話ではなく、一般の教員はキャリア全体についての考え方を指導することが大事だというアドバイスがありました。

主体的・対話的授業を実践する際の悩み

受講者の中には、すでに初任時から主体的・対話的授業を実践している人も多く見ることができました。そういった受講者からは「大学入試に備える実力がつくのか」といった、不安の声も上げられました。小林氏は生徒に実験方法まで任せるという自由度の高い授業を展開しつつ、一方では授業の中で答案練習をさせることも欠かさなかったといいます。その際に、答えを書かせるだけでなく、「なぜその答えを導き出したか」という解答の過程を書かせることを心がけ、その上で、答案を生徒たちに相互採点をさせることで、協働学習の効果を高めていったといいます。

私学教員は大学への進学実績を厳しく問われるため、主体的・対話的授業が「知識の定着につながるのか」「大学実績につながらないと批判されるのでは?」という点が気になる受講者が多かったようですが、これに対し小林氏は「主体的・対話的授業を導入してから、むしろ大学進学実績は上がった」と答え、「新しい授業」が結果的に学力の向上に結び付いていることを指摘しました。

さらに、こういった授業を展開するにあたり、「学力層がバラバラの生徒たちをどうグループ分けするか」といった疑問が出されました。この点について小林氏は、「能力をシャッフルしてグループ分けすることが好ましいが、分けられていたとしても、下位層のグループが上位層のグループに自由に質問できる環境にしていれば効果的に進められる」とアドバイスしました。

「新しい授業とは何か」を考える

質疑応答が終了し、受講者が簡単な振り返りをひとことずつスプレッドシートに記入して、この日のセッションは一通り終了しました。

この日のまとめとして、小林氏から文部科学省の2012年の資料をもとに、「新しい授業とは何か」という解説がありました。新しい学びは10年前から文部科学省が提唱しており、この流れはすでに必須であることが強調されました。また、技能向上の手段として、教室の四隅にPCを設置して生徒たちの様子を動画で撮り、授業の振り返りをほかの教員と行う方法なども紹介されました。

最後に、今回の研修について「事前の動画視聴や研修後の振り返りなどで、先生方が前後の時間も学べたと思う。生徒へオンライン授業を実施する上での参考にしてほしい」と小林氏からアドバイスがありました。

参加した先生からは「対話的な学びは勉強が苦手な生徒には難しいと思っていたが、他の生徒に質問をすることだけでも対話的な学びになるということを教えられた。授業で取り入れていきたい」「ある程度知見を持って臨んだと思っていましたが、その考え方や知識を改めさせられるような研修だった」といった意見が寄せられました。

また、すでに主体的・対話的な学びを実践している先生は「自分の授業方法が間違っていないと再確認できた」と自信を持つことができたようです。

それぞれの先生たちが自分の学校の状況と照らし合わせ、前向きに授業改善に取り組むきっかけとなる研修だったようです。

■研修概要
日時:2022年5月14日(土)14:00~16:00
場所:Zoomオンライン

■講師紹介
小林 昭文 氏
株式会社AL&AL 研究所
代表

埼玉大学理工学部物理学科卒業。空手のプロを経て埼玉県公立高校教諭として25年間勤務。在職中に、カウンセリング、コーチング、エンカウンターグループ、メンタリング、アクションラーニングなどを学び、高校物理授業をアクティブラーニング型授業として開発し成果を上げた。退職後は、能率大学経営学部教授(2014年4月~2020年3月)などの立場で実践・研究しつつ、年間100回前後のペースで高校等の研修会講師を務める。2020年4月からはフリーの授業改善アドバイザーとして活動。著書に「アクティブラーニング導入&実践 BOOK」(学陽書房)など多数。

ご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。

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