第6回 先生と生徒のための「問う力」講座[STC研修レポート2022]
「主体的・対話的な深い学び」を実現するためには、「問い」を多く持つことが必要です。先生や生徒自身の「問う力」はどう養成すればよいでしょうか。今回は、エイチ・アール・ディー研究所の吉岡太郎氏を招き、教員自身の「問う力」を鍛えるワークショップ型の講座を企画しました。「問う力」をトレーニングしながら、授業に応用できる具体的な方法を考えていきます。
■研修講師
講師: 吉岡 太郎 氏
(株)エイチ・アール・ディー研究所 研究員
授業における「問い」の定義について考える
発問の多い授業は教師のめざすところといえるでしょう。また、記憶型の学習の時代とは違い、「答えのない問いに取り組む」時代には、「問い」の存在が必要不可欠です。教師も生徒も「問い」の力をつけるには、どうすればよいでしょうか。
講師はエイチ・アール・ディー研究所の吉岡太郎氏です。今回はグループワークを多く取り入れながら、実際に「問い」を深めたり、展開させたりする手法を学んでもらいました。
最初に、吉岡氏から共著・監修を担当した参考図書『問う力が最強の思考ツールである』フォレスト出版) の簡単な紹介があり、今回は、この中の一部のワークを実際に受講者にやってもらうことになります。
早速、最初の個人ワークがスタートしました。最初の課題は
・あなたはどんな場⾯で、問いが必要ですか︖
・その場⾯で必要なのは、どんな問いですか︖
というものでした。さらに、それに従って1~3つの問いを作ります。その後、3~4人のグループに分かれてブレイクアウトルームに移動し、自分の作成した問いを発表しながらの自己紹介を実施しました。自己紹介では、「新人なので発問の仕方がわからない」「生徒に問いかけてもよい答えがもらえず悩んでいる」等、現場での悩みも交わされました。
グループワークが終了し、吉岡氏から、問いには「1人称の問い」「2人称の問い」「3人称の問い」の3種類があることが説明されました。今回は教室で必要な、「1人称の問い」と「3人称の問い」について取り上げます。まずは教員が「1人称の問い」のワークをしっかりマスターし、それを生徒に活用することで、生徒に「1人称の問い」の力を高めてもらうことが大事だと吉岡氏は指摘します。生徒が自分自身に問う「1人称の問い」は探究の時間にも必要となるからです。
問いの定義として「答えを求めようという意思があること」「疑問形であること」が挙げられ、試験問題と「問い」との違いが説明されました。
なぜ生徒に疑問形で問うことが必要なのかをGoogleスライドに書き込む個人ワークが出され、その答えをチャットで投稿してもらいました。「気軽に答えることができる「自分事として考えやすい」などの意見が挙がり、「問いの形」によって答えるほうの反応も変化することが改めて認識されました。
ワークを繰り返し、問いの力をトレーニング
この後、「問う力」を高めていくワークがスタートしました。英語の5W1Hを使った問いを個人ワークで作り、その後、グループワークで発表し合いました。その後、複数のワークを個人ワークとグループワークを組み合わせて実施。かなり速いペースでワークは進んでいきましたが、時間を区切られることで、受講者も集中して取り組むことができたようです。また、個人ワークの後でグループワーク共有をすることで、新たな発見を得ることができました。
グループディスカッションでアイデアを出し合う
この後、吉岡氏からは「何を生徒に答えさせたいか?」によって、問いをどこまでシンプルにするか、どこまで装飾するかが大事、という解説がありました。「生徒が答えてくれなくて困る」という悩みに対して、「促したい思考にピッタリの問いが必要」との指摘があり、問う側の工夫も大切という解説がありました。
後半は、①「主語主体を明示する」②「問いの軸を動かす」③「思考コードを意識する」の3つのテーマでワークが実施されました。
まず、第一に「主語主体を明示する」問いの立て方では、簡単な個人ワークに取り組んだあと、少し長めにブレイクアウトルームでの時間がとられ、それぞれの受講者が自分の教科に合わせた問いを設定し、発表し合いました。「あなたは」と問うことで、ほかの可能性を排除でき、より生徒が答えやすい問いになります。
次に、「問いの軸を動かす」ワークでは、軸を設定した問いかけを考えます。生徒自身と世界、過去と未来、まとめるか揺さぶるか、の二軸を意識して問いを展開することで、問いはより具体化します。
最後は、「思考コードを意識する」です。ここでは15分の時間がとられ、各グループで三段階の思考コードに沿った問いを作成しました。口頭で話しあうグループや、ワークシートを共同編集しながら取り組むグループなど、取り組み方はそれぞれでしたが、どのグループでも活発なディスカッションが繰り広げられていました。
各グループ、深い問いを設定するのに苦労をしていましたが、全員でアイデアを出し合い、最終的にユニークな「問い」の数々が生まれていました。
それぞれのグループで考案した「問い」を発表
時間終了後は、メインルームで順番に各グループの代表1名ずつが三段階の問いを発表していきました。英語教育や地球温暖化、選挙、進路、といった、今の中学・高校生に身近なトピックで、ユニークな問いが数多く生まれていました。単純な問いは調べ学習に、複雑な問いは探究学習に向いていることなどの発見もありました。
今回の研修では、主体的な学びに欠かせない「問い」のスキルだけではなく、ICTを積極的に活用したグループワークで、受講者には実践的な力がついていったことがうかがえました。ディスカッションも実りのあるものが多く、最終的にどのグループも「深い問い」に到達することができたようです。
研修前には、やはり「生徒への問いかけに悩む」「問いかけをしても生徒が黙ってしまう」という悩みを抱える研修者が多くみられました。研修後は「自分の今までの授業のわかりにくさに気づいた」「(生徒が答えにくい)『どう思う?』という問いを『私たちはどうしたらいいと思いますか?』という問いに変えていきたい」など、発展的な振り返りがありました。また、他校の参加者とのディスカッションも好評でした。
さらに、今回の研修を通し、問いを修飾するスキルや、思考コードに沿った問いの設定など、具体的なスキルが身に付いたことを思わせる感想が多く寄せられました。