第9回 リフレクションと次世代リーダーシップ開発[STC研修レポート2022]
学校現場ではいま、管理職と若手をつなぐ「ミドルリーダー」が重要だといわれています。しかし、リーダーとしてのスキルや思考はどうやって身につければよいでしょうか。また、授業準備や進路指導・部活指導に追われる現場で、教員はミドルリーダーの役割をどうこなしていけばいいのでしょうか。AL&AL研究所の小林昭文氏を講師に迎え、年齢やキャリア、権限に頼らない次世代のリーダーシップを学びます。
■研修講師
講師: 小林 昭文 氏
㈱AL&AL研究所 代表
リーダーに必要な基本スキル・パターンを身につける
いま、学校では管理職と新人の間で活躍できる「ミドルリーダー」に期待がかかっています。しかし、学校改善の働きかけをしても、年配の先生から協力を得られなかったり、新しい提案が通らないなど、苦戦している先生方も多いのではないでしょうか。今回の講習ではグループワークを通じ、「リフレクション(内省)」力をつけることで、新しいリーダーシップのあり方を体現していきます。
講師はAL&AL研究所の小林昭文氏です。授業改善により学校現場で「居眠り皆無」「成績向上」などの成果を挙げてきた小林氏が、年齢やキャリア・権限に頼らずに身につけられるリーダーとしての基本スキル、基本パターンを紹介します。参加者には事前に30分ほどの動画を見てもらい、次世代リーダーシップの理論について学んでもらってから、この日の研修に臨んでもらいました。
講師との質疑応答で質問の練習をする
今回はグループワーク中心の講習になるため、参加者はあらかじめ5~6人のグループに分けられます。最初に、集まった参加者は自由に立ち歩いてお互いに自己紹介をしながらほかの参加者の名前をシートの座席表に書き込んでいきます。その場で活気ある空気が生まれ、小林氏からは「新学期のクラスで初日に行えばコミュニケーションがうまくいく」と解説がありました。このあと、事前に配信された動画に対する感想をグループで話し合い、また、質問したいことなども話し合いました。
次に、小林氏への質疑応答の時間に移ります。事前配信の動画を見て疑問に思ったことを質問する時間で、「質問のやり方」を学ぶ目的もあります。小林氏からは「ポイントは自分の意見として伝えること」「前置きをしないこと」など、質問する際の「基本スキル」の指示がありました。
数人の参加者から手が挙がり、「年配の先生を巻き込んで新しいことをやるには?」「生徒のリーダーシップ論を変えていくには?」「なぜ生徒が居眠りしない授業を作れたか?」といった質問が出ました。その1つ1つに小林氏は丁寧に答えていきます。
さらに質問から派生して、「居眠りしない授業は教科によっては難しいのではないか?」といった質問も出ました。この質問に対しても小林氏は具体的な例を挙げ、教科が変わっても工夫ができることを解説しました。それ以外にも「学力差がある生徒を教えるには?」「主体的な授業で学力が下がった例があるが、どうすればよいか?」など、いずれも学校現場で切実と思われる問いが出ました。それぞれの質問には小林氏から具体的なアドバイスが示されました。
質疑応答の時間は20分~30分もうけられました。質問者の質問から連想した質問が生まれるなど、その場で議論が広がる効果も見られました。「質問力」を高めることで、質問したほうにも抱えている問題に対する意識が変わっていく効果も得られたようです。
質問の基礎練習 アドジャン、リンキンボム①②
後半では、いよいよグループワークに移ります。最初は「アドジャン」という簡単なゲームのようなワークです。それぞれのグループで、メンバーが「趣味」や「出身地」などについて1人ずつ順番に話します。一巡したら、全員が30秒ずつ振り返りを発表します。この「取り組んだら振り返る」という習慣が、主体的な学びにもつながるそうです。
次に、「リンキンボム(Linking Bom)」というワークに取り組みました。これは、テーマオーナーのトピックに対して、全員が順番に質問をしていくものです。今回のテーマは、「最近あった楽しい出来事」。一巡したら、テーマオーナーが振り返りを発表し、また別の人がテーマオーナーとなって、同じことを繰り返します。小林氏はグループ間を歩きながら、「もう少しテンポを上げるといいよ」「シンプルに質問してみて」など、細かなアドバイスをします。どのグループでも活発に質問と回答が飛び交い、場が温まっていく雰囲気が伝わりました。
さらに、「リンキンボム」の応用ワークに取り組みます。テーマオーナーが話したあと、2人が「事実・事柄」についてのみ質問し、次の1人は「その人の気持ち」について質問します。最後の質問者はフィードバッカ―として、これまでのプロセスで感じたことを(肯定的・受容的に)伝えます。最後に、テーマオーナーが中心になって振り返りをします。ここでは、急に感情を聞かれてとまどうテーマオーナーも見られ、参加者の間で「自己開示って難しいね」といった感想も交わされていました。
ワーク終了後、小林氏からは「なぜこのワークが難しいかというと、私たちは普段、質問する時に相手に何を聞くかを、はっきりと決めていない。しかし、今のように事実を聞く・感情を聞くなど角度を持って用意をして質問をすれば、問題解決が近くなる」という解説がありました。
質問力とリフレクション力を向上させるクリティカルフレンド
最終ワークは「クリティカルフレンド」です。まず、中央のグループの周囲に全員が集まり、グループの中の1人の課題を考えていきます。小林氏から「来週くらいに解決したい、ちょっとした学校の問題」とテーマ設定があり、1人の参加者が部活動に関する悩みを話しました。
周囲から順番に質問がありましたが、「部員は何人か?」「どれくらい強い部活なのか?」といった「事実」にのみ基づいた質問が続き、そこで小林氏が「先生はそのことが起こったらどう困りますか?」と、テーマオーナーの「感情」に注目した質問をします。ここで、テーマオーナーの中で自分の気持ちを振り返るという行動が起こり、そこから続く質問も変化してきました。最後に、テーマオーナーがこの問題に対して、どう対応していきたいかを述べてワークが終了しました。
この後は、それぞれのグループに分かれて、「クリティカルフレンド」のワークを行いました。ほんの10分ほどの間でしたが、それぞれが質問されることによって、新しい視点が得られたようです。
小林氏は「6分間質問されて答えていくだけで、自分に違う考えが生まれる」と指摘。こういった取り組みを授業としても取り入れられることができると説明しました。また、学校組織の中では「質問することで若手やベテランが変わっていくこともある」と解説し、ミドルリーダーの技法としても「意図的な質問」が有効であると強調しました。
振り返りシートに記入して、今後の取り組みに活かす
最後に、今回の研修会で気づいたことや感想、また、その気づきをこれからどう活かしたいかをそれぞれの参加者がリフレクションカードに記入し、研修は終了しました。会場では終了時刻を過ぎても熱心に感想を書き込む姿があちこちに見られ、今回の研修で多くの発見があったことを感じさせました。
前半の質疑応答で具体的なアドバイスが得られたこと、また後半のワークでは体験を通じて実感した部分が大きかったことで、学校での行動変容につながる学びが得られたようです。
後日の振り返りでは「座席表、アドジャン、リンキンボム等体験したことを学校に戻って継続して実行していきたい」「授業で『どうやって生徒の頭を働かせ続けるか』ということを意識すると、今、授業設計で困っていることが解決する気がした」等、授業や指導に活かせる体験ができたことを感じさせる意見が多く見られました。