第11回② 先生としてのキャリア、個人としてのキャリア[STC研修レポート2022]
人生100年時代といわれ、定年も60歳から65歳へ、さらに最近では70歳まで延長する動きも見られます。労働時間や労働環境も変化し、多彩な働き方が求められている中、どんなキャリア教育が必要でしょうか。また、教師自身はどんなキャリアを築いていけばよいでしょうか。中村中学校・高等学校でキャリア教育に携わる永井哲明氏を講師に迎え、現代における「キャリア」の考え方を学びます。
■研修講師
講師:永井 哲明 氏
中村中学校・高等学校 進路指導部長
私たちを取り巻く変化
現在は不確実性の時代、予測困難な時代と言われています。これからの日本では、初職で得た職業スキルで定年まで勤められることはほとんどないと言われています。この大きな変化に教師も無縁ではありません。変化の中、教師はどうやって自らのキャリアと向き合っていけばよいでしょうか。
講師は中村中学校・高等学校の永井哲明先生です。進路指導部長を務め、日々生徒たちのキャリア指導にもあたっている永井先生に、これからの時代のキャリアデザインについて、そして教師のキャリアについて講義してもらいました。
最初に、同校の保護者向けキャリアガイダンス資料をもとに、私たちを取り巻く社会の大きな変化について解説してもらいました。男女共同参画社会が推進され、女性の活躍が増えると共に、男性の「生きづらさ」にも着目されるようになりました。一方で、非正規雇用が増えるなど格差が進み、円安社会や超少子高齢社会などの問題も出てきています。こういった問題には生徒の興味も高く、探究授業にもつながっているそうです。
教員に身近な問題としては、大学入学共通テストに大きな変化が見られています。高校の学習指導要領改訂に伴い、2025年全入試から「情報Ⅰ」が受験科目に加わり、さらに既存教科が問う能力も変化してきました。総合型選抜、学校推薦型選抜の割合も増え、教員はその対応に追われる状況となっています。
大きな流れとしては、「見えない学力」をどう評価するか?という時代に突入しつつあります。「見えない学力」を定着させるものに探究的な授業がありますが、ここで、永井先生から「皆さんの探究の定義はなんですか?」と質問がありました。まず、個人ワークで探究の定義を書き出し、その後グループワークで探究をどんなコンセプトでとらえているかを話し合いました。さらに、個人で再考を行いました。探究に力を入れている学校が多いだけに、グループワークでは議論が盛り上がりました。メンバーと活発に意見を交わし、それぞれの再考に活かすことができたようです。
永井先生からは、「答えがない問い」に対して考える、取り組んでいくことが大事という説明がありました。生徒に求めるだけでなく、教師自身が答えのない問いを考え続けることが大切です。
『先生』としてのキャリアを活き活きとデザインする力
次に「『先生』としてのキャリア」を考える講義に入りました。改正高年齢者雇用安定法などにより、教師も再雇用で長く働く時代となりました。しかし、長く前向きに働くためには単に定年を延長すればよいのではなく、自らのキャリアを積極的にデザインしていく気持ちが必要になります。
ここで、中村中学校・高等学校のキャリア教育の具体例が紹介されました。同校では当初学校でのキャリア教育で重視されていた「ライフプラン」という考え方を変更し、「キャリアデザイン」という考え方を重視するようになりました。キャリアデザインはいくつでも、いつからでも、同時進行でも創れるもので、他者貢献を意識しつつ、自分の路を進むことです。同校では「30歳からの自分」をイメージして、生徒たちにキャリアデザインを考察させているそうです。
予測のつかない社会ではプランを立てて実行していく「PDCA」ではなく、「O(観察)・O(方向づけ)・D(判断)・A(行動)」が大切、との解説もありました。「OODA(ウーダ)」は、1970年代に提唱された戦術に基づくものですが、この前提となるのが、「ヴィジョンを共有すること」や「対話がある」ことです。永井先生からは、「教員も生徒も当事者意識をもって新しい社会を創り上げていく」意識が大切であることが強調されました。
OODAのようにプロセスを大事にすることが、自己肯定感にもつながります。さらに、生徒も教師も「誰も見ていなくても必要なこと」を自律的に取り組むことで、自己有用感を感じることができます。加えて、「主体的対話的に深くキャリアデザインする」というキーワードも示されました。
『個人』としてのキャリアを愉しくデザインする力
最後に、個人としてのキャリアをデザインする力についての解説がありました。現在、政府の方針でも「リカレント教育(社会人の学び直し)」「リスキリング(学び直し)」が大きく注目されています。「学び直しはいつでもできる」と、永井先生。また、変化の激しい社会で正解のない人生を生き抜くためには「変化を予測することをやめないことが大事」と語ります。予測不可能なことが何度も起きると、予測することをあきらめ諦めてしまいそうになりますが、少しずつでも変化に備えれば、成長ができます。小さな試みからでもよいので、取り組んでいくことが生きる力となりそうです。
さらに、具体的な方法として
・悪い変化が起きた時には「WHY」ではなく「HOW」→どう対応しようか?と考える
・良い変化が起きた時には「HOW」ではなく「WHY」→なぜそれが起きたのか?と考える
というノウハウが紹介されました。
加えて、子どもたちへのキャリア教育において「理想を語る役割は、中学・高校の先生が担う」と、永井先生。大学生や社会人へのキャリア教育は具体的な「指導」に入ってしまいます。その前の段階で、先生方たちが生徒の希望や、やりたいことに寄り添っていく姿勢の大切さが強調されました。
振り返りでは「社会の変化について改めて考える必要を感じた」「生徒たちに自身への問いや興味を持たせる、そこから新しい何かを生み出すことが非常に大切だと感じた」など、前向きな感想が多く見ることができました。また、先生たち自身が自らのキャリアを考えるきっかけにもなり、「キャリアデザインは何歳からでも、いつでもできる」という考え方に大きく励まされたようです。教師自身も、教師としてだけでなく、個人としてのキャリアを考えることで、教室の中でも多様性が育まれていくことでしょう。