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第3回 「学びのメカニズム」から発想する授業アプローチ[STC研修レポート2023]

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生徒の主体性を高める学びが求められる昨今、どのような授業アプローチが必要なのでしょうかエイチ・アール・ディー研究所の吉岡太郎氏文部科学省の推奨する「主体的で対話的な深い学び」を深掘りし、学びのメカニズム解説グループワークを多くとり、授業の工夫や改善点について共有し合い、受け身だけでない学びを行いました。 

■研修講師

講師: 吉岡 太郎 氏 
(株)エイチ・アール・ディー研究所 研究員 

 

「主体的で対話的な深い学び」を因数分解して考える 

情報化やグローバル化、人工知能の発達など社会の変化が加速度的となり、未知の社会を生き抜く力を育むための「主体的・対話的で深い学び」が文部科学省より推奨されています。こうした学びを実現するために、教師は具体的にどのような授業運営をしていけばよいのでしょうか。 

社会人の育成研修などを手がけるエイチ・アール・ディー研究所の吉岡太郎氏を講師に迎え、「学びのメカニズム」を理解することで、よりよい授業アプローチを体感していきます。 

吉岡氏はまず、普段の授業において、⼯夫やアプローチが「うまくいっている」点と、授業を改善するために「何かヒントが欲しい」点を、シートに記入するよう指示しました。会場では、受講者が6つのテーブルに3~4名ずつ着席しています。一人ひとりが熟考した上、テーブルごとに情報共有し共通点を整理して、代表1人が「何かヒントが欲しい」点について発表しました。 

・授業内容は理解できても、その後問題が解けない生徒をどのようになくしていくか 

・基礎知識や基礎技能の差が大きい集団に対してどうアプローチしたらいいか 

・生徒の主体をいかに引き出すか 

などが出そろいました。 

吉岡氏は各発表について詳細を質問し、受講者の求める授業改善ポイントを整理した上で、学びのメカニズムについての解説をはじめました。 

 最初に、教育工学の基本である「ゴールベースト」を紹介。学習者(生徒)が得るべき「学び」が学習の目的であり、そこに至るプロセスが問題を解く・トレーニングをするなどの「学習活動」であり、「学習活動」をサポートするのが「授業アプローチ」であると説明しました。 

そして、文部科学省が推奨する「主体的で対話的な深い学び」を領域に分けて因数分解して考えると 

・「主体的」=学習者の態度領域 

・「対話的」=授業アプローチ 

・「深い学び」=得たい成果 

だと指摘。さらに「主体的」な学びを3種類に分解し、 

・学習テーマに自分の周囲のことを結びつけて興味をもつ学習前の主体的な学び 

・学習内容を自分の経験や既知のことと結びつけて理解する学習中の主体的な学び 

・習得したことを自分の新たな身の回りの事柄に適用する学習後の主体的な学び 

だと述べ、生徒がこの3つを学習活動で実践できるようサポートすることが、授業アプローチの目的になると強調しました。 

加えて、教育心理学者のベンジャミン・ブルームの教育目標のタクソノミー(分類法)を参照し、学びの深さにはレベルがあり、教師は「記憶」や「理解」、学んだことを応用できる「適用」など、めざすレベルを決定し、それに沿ったファシリテートが必要だと述べました。また、「創造」的な学びに至るためには、「分析」「評価」などの学びを段階的に経ることが不可欠であることも解説されました。 

 

学びのメカニズム「ICE 

次に、S、ヤングが提唱する学びのメカニズム「ICE」を用いた授業アプローチについて解説しました。「ICE」とは、学習者が見たり聞いたりする「INPUT」Ideas)→学習者が頭を使ったり身体を使って行う「PROCESS」(Connections)→発表する、教え合うなどの「OUTPUT」(Extensions)の3段階を経て、「MEMORY」=学びが記憶される学習モデルだと吉岡氏は説明します。 

さらに、危険察知に敏感な野生動物の行動理論を例に挙げ、人間も自分にメリットがある事柄にのみ反応し記憶する性質を持っていると述べ、だからこそINPUT、PROCESS、OUTPUTの各段階で生徒が関心を持つ内容を採り入れることで記憶が強化されると解説しました。記憶の強化についての理論も2~3紹介し、授業アプローチへの活用を促しました。 

受講者から「『主体的』と『自主的』の違いとは? 主体的に学ばせることは難しいと感じる」と質問があり、吉岡氏は「主体的に学ぶ」ことをゴールに設定し、教師が用意したテーマを自主的に取り組むプロセスを経て、生徒の自己効力感が高まったら、教師がサポートしながら主体的に取り組ませる方法論を紹介しました。 

休憩をはさんで、受講者が普段の授業で行っている工夫が「ICE」のどの領域にあてはまるかをそれぞれ書き出し、共有するグループワークを行いました。各テーブルとも活発な発言が聞かれ、さまざまな気付きを得る有意義な意見交換が行われたようです。 

 

グループワーク・ペアワーク基本Think pair Share 

次には、ペアワーク、グループワークの基本である「Think pair Share」のアプローチが解説されました。「Pair」=意見を共有し合う前に、必ず一人ひとりで考える「Think」の時間を取るべきだと吉岡氏は強調します。 

こうした学びには、「わからない」生徒から出た疑問が、「わかる」生徒にも深い学びを生みだします。ペアやグループで理解度や学力にレベル差があることは、学びの素晴らしいチャンスであり、教わる側の生徒はもちろん、教える側の生徒にとっても、教えることでより分析的に考え理解が深まると吉岡氏は述べました。 

 

“問い”が学びの深さ・領域をコントロールする 

次には、シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」を題材に、担当する教科でどのような問いが立てられるかを考えるグループワークを行い、さまざまな問いが発表されました。 

吉岡氏は問いの設定によって学びの深さや思考の領域、方向などをコントロールできると指摘。目的とするレベルに適した問いを立てることが大切であり、より的確な問いを立てるには練習して問いを立てる技術を磨く必要があると述べました。その後、グループワークで考えた問いは、3段階の思考コードのいずれにあたるかを考え、グループで意見交換する時間が設けられました。 

 受講者から「おすすめのグループワークを教えてほしい」という質問が出て、吉岡氏はグループ内でそれぞれが異なる課題に取り組み、互いに共有する「ジグソー法」を挙げました。最後にフレイレの「被抑圧者の教育学」を取り上げ、「主体的でない生徒がいるのではなく、主体的な学びを奪う授業がある」という言葉で締めくくり、講習の仕上げとして、今回の講習で「整理できたこと」「これから取り入れること」をシートに記入し、グループで共有しました。 

振り返りでは、受講者から「授業への考え方が180度変わった」「自分の授業の欠点と改善点がわかった」「グループワークでさまざまな教科の視点から考えることができた。教科横断授業を行う上で役立てたい」などの感想が聞かれました。また、改善したい点を整理した上で講義を行う研修の進め方についても、「自らの課題を解決しようとモチベーションが生まれた。この方法を授業にも活かしたい」という意見もあり、多角的な学びを得て多くを持ち帰る研修となったようです。 

ご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。

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