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[STC研修]リレーションシップ~保護者対応〜

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テーマ リレーションシップ~保護者対応
17:00~20:00
講師: 中土井 鉄信 氏

保護者、生徒、教員の関係を理解する

生徒から信頼され、教育活動を円滑に進めるためには、生徒一人ひとりの背景にいる保護者の信頼を得ることが不可欠です。今回のSTC研修では、私立中高一貫校や教育委員会、学習塾などを対象にした経営コンサルタントの中土井鉄信氏を講師に迎え、保護者対応の基礎となるコミュニケーションについてワークショップを交えた実践的な研修を実施しました。

「教育サービスは一般のサービス業と同じではありません」冒頭に中土井氏は、はっきりと受講者に伝えます。そうはわかっていても、昨今の教育現場には「お客様然」とした過剰な要求をしてくる保護者がいることも否めません。では、なぜ一般のサービス業とは違うのか、教育サービスの顧客構造が一般消費者を顧客とするB to C企業とは、3つの点でまるで違うからだと中土井氏は解説します。
「1つめは顧客が二重化していることです。教師や学校の直接の顧客は生徒ですが、生徒の成長に対して対価を支払っているのは保護者という間接的な顧客です。その意味で二重化しているのです。(中略)これらが教育サービスに見ることができる特徴です」

こうした生徒、保護者、教員の関係性を理解することができれば、直接顧客である生徒との信頼関係(ラポール)構築のためにも、そして間接顧客である保護者への説明責任を果たすうえでも、教師のコミュニケーション力が重要だという理由がわかります。教育におけるコミュニケーションの目的は「他人が、自分のことを重要だと思ってくれている」感覚を持つ「セルフエスティーム(自己重要感)」を持たせることだと言います。セルフエスティームが高まると自信がつき、心のエネルギーがわいてきます。それで生徒自身が自分の可能性を信じることができ、つまりは「やる気」につながるのです。

生徒の当たり前をほめてラポール形成

最初のペアワークは「やる気」の元になる「心のエネルギーが高まる」体験をしました。ペアの片方が、相手の良い点を数多く列挙して言葉で伝えます。髪型でもメガネでも表情でも構いません。はじめはくすぐったいような表情の先生方でしたが、互いにほめあっていくと次第に笑顔が増えていき心にエネルギーがわいてくるのがわかります。

続いて中土井氏が「このあと、相手のここを直したほうがいい、という点を挙げて伝えるワークをします。」と指示を出すと、会場から一斉に「えー」と落胆の声が。「やりたくない人? たくさんいますよね。この感覚を覚えておいてください。先生がいつも生徒に対してやっているのはこれと同じことなんですよ」。そう言われると、会場は、はっとしたような空気に包まれます。中土井氏が伝えたかったのは、「当たり前のことに着目し、ほめることの大切さ。」です。ペアワークでほめあってうれしかったのは、実は特別な何かをほめられたからではありません。服装や見た目などごく当たり前のことも含まれていたはずです。これを教育現場に置き換えてみると、教師は生徒の「当たり前」には着目しづらい盲点があると気づきます。「生徒のだめな点ばかりが目に入って指摘してしまうと、生徒は“先生はいつも自分を評価してくれない”と、思ってしまいます。信頼関係であるラポールは失われていき、指導を受け入れられなくなっていくのです」。
特に反抗期にあたる中高生の時期は、保護者からの自立期でもあるため心理的には不安な状態にあります。だからこそ「当たり前」に目を向けて承認し、セルフエスティームを高めることが教師への信頼につながると中土井氏は言います。生徒を具体的にほめることを「承認活動」と言いますが、存在を認める「存在承認」に加え、「今のやり方でがんばれば大きくなれる。」という「未来承認」の重要性も指摘していました。

コミュニケーションの本質に迫る

続いてのペアワークは「リフレーミング」です。「自分が思う短所」を、相手に別の言葉でポジティブに言い換えてもらい、その言葉を浴びるワークです。たとえば「時間ぎりぎりまで仕事に着手できないのが短所」と言ったら、相手は「ぎりぎりでも取り組めるのだから集中力が高い」とか、「時々ぼーっとしてしまう癖がある」という短所は、「心のゆとりを上手に持てる」といった具合に言い換えていくのです。
さらに、「最近あった嫌なこと、頭にきたこと」を出し合い、「あなたにとって、それはすごくいい出来事だった」と返していく、少し高度なリフレーミングを体験します。先生方は言葉選びに苦労しながらも、相手の言葉から心情をくみ取り言葉を尽くしてリフレーミングすることができていたようです。その様子を見て中土井氏は「このリフレーミングができれば子どもや保護者と良い関係が築けるようになります。リフレーミングはさらに自分自身にも役立てることができます。教師は子どもや保護者に対応して常にいい気持ちで接することができるとは限りません。むしろ嫌な気持ちになることが多いでしょう。そのときにこのリフレーミングが使えれば、嫌なことにも良い意味を与え落ち込むことなく、明日も元気に子どもたちと向き合えるのです。」と言います。

後半は、よりコミュニケーションの本質に迫る講義がありました。やはりペア、グループワークの手法を用いて、実感を伴った、また明日からの授業や指導にも活かせる内容となりました。
1つめはコミュニケーションをするときのコツです。中土井氏は「話せばわかる」という、発信側目線のコミュニケーション観には警鐘を鳴らします。コミュニケーションとは、受け手がどう理解したかにより伝わったかが決まるものであり、発信者側の心理的な工夫がそれを左右すると言います。まず①相手に「関心」を持つ、そして②相手の価値観を知ろうと思う、この2点が重要だと言います。実際にそうした気持ちを持てるようなワークにも取り組みました。

それが「5分間インタビュー」のペアワークです。Aさんが相手のBさんに、Bさんの人となりを引き出すような質問を5分間行い、その後、AさんがBさんに「あなたはこんな人」と説明します。それが当たっているかどうかを確認して、インタビューのスキルを向上させるものです。2時間前までは知らない者同士だった先生方が、日常の出来事から趣味の内容、人生観や教育観まで、次第に深い話や自分の内面をさらけだすような話し方に変化していたのには驚きでした。
このワークの目的はコミュニケーションのスタートは「聞くことからはじめる」事と実感してもらうためのもの。相手の価値観を引き出し、それに沿った話し方ができるほうが、相手の思考や行動を変容させるきっかけになるのです。
最後のワークはAさんがBさんの嫌いなものを聞き出し、それを「やってみようかな」という気持ちに納得させられるようなコミュニケーションです。会話はかなり盛り上がりましたが、実際に「納得した、やってみよう」と感じた人はわずかでした。教師が生徒に指導をする場面を想像してみると、生徒の行動を変えようとすることは容易ではない、説得することの難しさもまた、実感できたのではないでしょうか。

「明日の面談に活かす」という声も

中土井氏の講義やワークの技法は、アドラー心理学の知見をベースに構成されています。対処療法的なケース紹介ではなく、コミュニケーションの本質から保護者対応を問い直す内容に、深く感じ入った先生方も多かったようです。「コミュニケーションの本質を知ることができたとともに、その怖さも感じた」「教員と生徒と保護者の間に、情報のギャップがあるという視点は自分になかった」「勤務経験数が長くなると見失ってしまうところ、流してしまうとことがあると感じた」「もう一度、生徒の良い点を意識したい」などの感想がありました。
明日からの生徒・保護者対応、普段の授業でのやりとりを改善してみようという気持ちも生まれています。「明日、三者面談があるので保護者の発信する言葉に注意して真意を考える努力をしたい」「生徒が放つ違和感に敏感になるよう経験を積みたい」と、即実践に移してみようという意気込みや、「生徒の話を聞く時間を見つけ、面談を増やしたい」「承認の活動をキャリア教育の中で実践してみたい」など、今後の面談や授業のヒントを見出した先生も多数いました。
春から担任を持った、面談の多い分掌になった、など、環境の変化にとまどいや不安を覚える先生も多いこの時期、中土井氏の講義に「悩みがなくなった」「迷いながらやっていた対応が正しかったとわかり励みになった」という声もありました。初任者や若手の先生方だけでなく、中堅の先生方もセルフブラッシュアップの意味で、意義ある3時間となりました。

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