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教員研修・育成セミナーレポート

[STC研修]教育現場でのLGBT 性同一性障害を理解する

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テーマ 教育現場でのLGBT  性同一性障害を理解する
17:00~20:00
講師: 松永 千秋 氏

認知が進み、文科省も通知

ここ数年で、L(レズビアン)G(ゲイ)B(バイセクシュアル)T(トランスジェンダー)などの性の多様性を表す言葉として「LGBT」が定着してきました。松永氏の講義の模様をお伝えする前に、LGBTに関する教育界の動きをまとめておきたいと思います。
電通ダイバーシティ・ラボが全国の20歳から59歳までの個人約6000人を対象に行った「LGBT調査2018」によると、日本でLGBTに該当する人は8.9%、11人に1人という結果が出ています。LGBTという言葉の浸透率は68.5%となり、LGBTでない人の76%がLGBTを「正しく理解したい」という意向を持っていることも明らかになりました。
テレビやインターネットなどでLGBT当事者の声や、職場や家族関係における課題などが取り上げられるようになり、周囲の理解は進んだかのように見えます。しかし、同調査ではLGBTの人にとって「職場にサポート制度がない」が54.5%、「職場の同僚(上司・部下含む)へのカミングアウトに抵抗がある」(「抵抗がある」「まあ抵抗がある」の合計)が50.7%と周囲の環境に障壁があることを明らかにしています。
教員の方なら、トランスジェンダーの生徒役を上戸彩さんが演じた「3年B組金八先生」の第6シリーズ(平成13年)を思い出す方も多いかもしれません。トランスジェンダーとは性別の自己認識である「性自認」の多様性を指します。ドラマでは「性同一性障害」と表現されており、文部科学省の資料などでは性同一性障害と表現されています。
LGBTに関する教育界の動きを追ってみると、次のようになります。
平成15年に「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が成立し、家庭裁判所の審判により、戸籍上の性別記載を変更することが可能になりました。これを受けて、文部科学省は平成22年に性同一性障害を抱える児童生徒の教育相談の徹底を通知しました。平成26年には「学校における性同一性障害に係る対応に関する状況調査」を実施、性同一性障害に関する教育相談等が全国で606事例あったことを明らかにしました。
翌年の平成27年には「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細やかな対応の実施などについて」を通知、平成28年4月にはLGBT児童生徒への支援などを具体的にまとめた教職員向けハンドブック「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細やかな対応等の実施について」を公表しています。最近では、中教審をはじめとする各会議でも配慮を必要とする児童生徒としてLGBTも忘れてはならない、といった発言も聞かれるようになってきました。
前置きが長くなりましたが、今回の研修は、「心と体の性の不一致」と説明される「性同一性障害」をテーマに取り上げました。43名の先生方が参加。若手というよりは中堅・ベテランの先生方が多く参加されました。

医師として、当事者として

講師の松永氏は大学時代は物理学を専攻、医学部に転身し精神科医として病院勤務などを経験、その後、独立して現在のクリニックを開業されています。1980年に出された精神障害の分類と診断の手引き「DSMⅢ」に、初めて性同一性障害が取り上げられたのを機に「自分がそうかな」と思いながらも「言い出しにくかった」といいます。その後、アメリカ留学を経て帰国、勤務する病院で「性同一性障害」の専門外来を立ち上げました。その1年後、ご自身も周囲に性同一性障害であることをカミングアウトし、男性医師から女性医師として勤務するようになりました。「それで患者との信頼関係は変わることはありませんでした」と振り返ります。
立ち上げた専門外来には次々と患者が来るようになり、平成24年にはクリニックを開設。4年間で性別に違和感があると訴える人が1000名来院したといいます。現在は子どもからシニアまで1か月に約300人の患者が訪れるといいます。2人の娘さんとの写真や、世界のトランスジェンダーが集まる学会でのオフショット、企業の人権担当者の勉強会に講師として呼ばれたときの写真など、公私にわたり充実した日々の様子がスライドで映し出されました。
松永氏が最初に強調したのは、LGBとTでは、概念が異なるという点です。LGBは恋愛対象や「性指向」を指す概念で、女性として女性が好きな人がL、男性として男性が好きな人がG、同性も異性も好きな人がBとなります。一方T(トランスジェンダー)は、性別の自己認識である「性自認」を指す概念で、通常の男・女の枠に当てはまらない性のあり方、またはそのような性のあり方をする人と定義づけることができます。

男・女だけでない「自分らしい」性のあり方

性同一性障害は精神疾患として扱われてきた歴史があるため、長らく治療の対象とされてきました。精神科にかかり性同一性障害だと診断されて初めて、心の性別に体の性別を近づけるためのホルモン治療や性別適合手術が可能になり、その後、戸籍変更ができる、というのが一般的な性同一性障害に対する理解です。その背景には平成15年に成立したいわゆる「特例法」が大きく影響しています。同法では性別変更にさまざまな要件を定めており、特に「生殖腺がないこと、または生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」など世界的には問題視されるような要件も残っているとのことです。
自分の認める性が、男・女の枠に当てはまらないならば、どちらかに体を近づけるよう治療を進めればよいのかーー、そう単純ではないことを松永氏はさまざまなエビデンスをもとに解説していきます。身体の性別を外性器や染色体で区別するなら、いずれにも区別できない「中間的」な状態があることが明らかになっているそうです。また、心の性別に関しても「男性でも女性でもない」と自覚する「Xジェンダー」と呼ばれる当事者が増えていることから、「身体的にも精神的にも、人間の性は多様なあり方をしているのです。自分自身をどう感じているか、社会的・文化的な文脈の中で、どう生きてきて、将来をどう生きようとしているかといった人間の全体像を見ないと、その人の性のあり方はわかりません。本人が思う性のあり方に真摯に寄り添うことが大事なのでは」と、松永氏はいいます。
そこで、松永氏が提唱するのが、当事者が「自分らしいと思える性のあり方に気づいていく援助をする」という新たな考え方です。典型的な男性性、女性性に合わせるのが目的ではなく、その人の人格の性的側面が、自我同一性に統合されるのを手助けする「発達」の観点を取り入れることだといいます。▽診断にこだわらず、当事者が自分らしく生きることを支える▽性別に違和感を抱えていても、自我同一性の統合を自力で成し遂げることが可能と考える▽医療は必要なときに必要なだけかかわる▽家族やパートナー、友人、同僚などのサポートが有用なため、そのような人々への援助を怠らないーーなどを診療時に大切にしているとのことです。

学校対応は校長の役割が重要

後半は学校での症例紹介が行われました。学校現場では服装や髪型、更衣室やトイレ、呼称、水泳や運動部の授業などを、自認する性別を基準に認める平成27年の通知により「学校で制服や体育での対応はスムーズになった」と松永氏は話します。
ある中学生のケースでは学校長が主体となり、教育委員会やスクールカウンセラーがサポートチームを結成、校内体制を整えていったといいます。そのおかげで年度途中でも性別移行がスムーズにできたといいます。「大切なのは学校体制。特に校長の役割が大事で、このケースでは全校集会で校長が全校に向けて、生徒の個性を認めることについて講話するなど前向きな姿勢があった」ことが、成功のかぎになったといいます。校長がイニシアチブをとることで、全教職員が情報を共有し、統一した対応がとる、当事者本人が「校長先生が認めてくれている」と安心できるといいます。
松永氏は学校対応での「原則」と「個別の検討事項」を分けて示し、中でも「本人の希望する性で扱い、画一的な扱いはしないこと」と、本人の個別性の尊重を強調しました。
私立学校においても校長や教職員の役割、スクールカウンセラーや医療機関などとの連携、本人を尊重し、いじめの防止などに努めることはまったく同じでしょう。講義後の感想アンケートではさまざまなコメントが寄せられました。
「LGBTの生徒がいたとき、型にはまった類型的な対応・指導をせず、生徒に寄り添った対応をしたい」と、講義内容を振り返る感想のほか、「LGBTの生徒に出会ったことがない(または気づいていないのかも)」「もっと多様性について学びたい」「本やドラマなどでしかふれておらず、知識がなかったため勉強になった」「ジェンダーを人格の性的側面とする考え方に大いに賛同した。性のあり方はアイデンティティーの一部と考えられると腑に落ちた」「女子校や男子校でどう対応したらよいか、症例を聞きたい」など、自身の認識を新たにしたり、自分の教えている生徒の中に当事者がいる可能性が高いことを想定し、学び続けたいというようなコメントも数多くありました。
「11人に1人」という数を見ると、クラスに数名はいると考える方が自然です。性のあり方を自我同一性の確立にかかわるものとして捉えるとき、中高6年間での過ごし方が、その人の将来のあり方に深く影響を及ぼす一因になることは間違いありません。2013年に公表された「DSM5」では、「性同一性障害」の名称は「性別違和」に改められています。また、今年5月のWHO総会で承認された診断基準「ICD-11」では、「性同一性障害」の名称が「性別不合」に変更されるなど、世界の潮流は、男性か女性かという性別二元論に基づかない性のあり方を認める方向に移りつつあるといいます。多様性を包摂した教育を実現するためにも、最新の動向を捉えつつ、現場での対応を今後考えていく必要があると参加した先生方は感じられたのではないでしょうか。

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